今回のエピソードトークで “The Album” の裏話は完結です。

ある意味、この記事で触れていることが一番濃いかも知れないなーと書きながら思いましたwかなり専門的なことも出てきますが、アルバム全体の仕上げ方の核でもあります。お楽しみいただければ幸いです。

使っているマスターエフェクト

アルバム全体のポストエフェクトは、

Waves Abbey Road TG Mastering Chain
Waves J37 Tape
iZotope Ozone8

この3つです。例外として、’Unfinished Song’には Abbey Road Vinyl を加えています。よりラフに仕上げたかったんですよね。

勘の良い方は「あれ?」と思うでしょう。マスタリングエフェクトの同系列のものが2つあるぞと。これは、それぞれに役割分担をさせるためです。TG Mastering Chainは全体の音質とステレオ処理。仕上がりの7割を担ってもらっています。Ozone8は、音圧の最終調整のためにかけてあるだけです。EQやDynamicsは切っています。

J37は、ノイズを発生させる目的と、若干のコンプ役になってもらうことです。この「ノイズ」というのが、今回のアルバムでは大事になってくること。

現在の音楽・録音に関する技術は、ノイズを除去することにかけては言うことがないくらいの技術があります。ただ、消しすぎて音が痩せてしまう、出て欲しい帯域が逃げるということも多くあります。一時期は、痩せたぶんコンプレッサーをかけて持ち上げることが主流でしたが、2019年現在、これは有効な手段ではありません。この理由は後述することとも関連してきます。

じゃあ痩せないようにするにはどうするか。いろいろやり方はありますが、僕が主に採る方法はノイズの加算です。これ、実はアルバム”home”でもやっています。意図的なノイズのせ。当時はこういう便利なプラグインがなかったので、ホワイトノイズとピンクノイズを各トラックにうすーく乗せていました。本当にうすーくなので、かなり耳が良い方でもわからないくらい。

だもんで、”The Album”を仕上げる時は「あー良いプラグインが出てくれたなー」と実感しました。

音圧について

“The Album”のマスターの元データ全体の音圧は、-10から-11LUFSの間に仕上げています。1)参考として、1stアルバム”home”は平均-8LUFSです。「元データ」というのが2019年現在ならではの表現なんですね。というのも、現在主流のSpotifyやApple Musicをはじめ、各定額音楽サービスに置いてある音源は、ある程度の音量まで強制的に下げられています。

具体的には、Spotifyが-14LUFS、Apple Musicが-12LUFSとなります。どういうことかというと、定額音楽配信サービスでは、僕が提出した元データよりも小さい音量で鳴っているということです。

そのまま考えると、音が痩せると解釈する方もいらっしゃいますが、音量を小さくされた時にいわゆる「オイシイ所」がちゃんと聞こえてくれればそれでいいんです。なので、音を持ち上げるよりも、減算してオイシイ所を残すというニュアンスですね。

2000年代は今とは逆、音圧天国でした。音をブーストする技術が上がった。で、オーディオ側で補正する必要がなくなったから、ラジカセやポータブルオーディオ製品も、’90年代に補正していた帯域は削ってコスパ重視に振っていきました。

仮にそのままの技術で今のSpotify等に置いてもらうとどうなるか。音が痩せるんです。しょぼーくなるんです。ぺっこぺこになります。事実、2000年代にリリースされた音源でSpotify等に置かれているもので、海外作品は、8割がた痩せないようにリマスタリングされています。

ちなみに、最初に「元データ」と表現した所以は、Google Play MusicやiTunes Store、配信元でもあるCD Babyで販売しているデータは元の音圧のままです。100%僕の意図が詰まった作品が欲しい方は、その3つのサービスのいずれかでお買い求めくださいませ。

Google Play Music
iTunes Store
CD Baby

次に、ミックスの方向としての背景に触れていきましょう。

ミックスの方向性

1990年代中頃の音楽メディアの主役は、CDとカセットテープでした。当時のCDは主流とはいえど、レコード時代の音の太さには程遠い音質だったんです。これは、録音技術がまだCD向きではなかったんですね。そのある種の未熟さを補う意味もあって、オーディオ家電各メーカーは挙って据え置き型CDラジカセのスピーカーの質に重きを置いた時代でした。

ですので、そこそこの価格のプレイヤーでも、立派なウーハーサウンドが楽しめたり、中低音をブーストしたものが多かったんです。その帯域は、当時のCDへの録音技術では出しにくかったんですよね。

僕自身がそういう背景で多感な時期を送ったのもあり、このアルバムではかなり低音をブーストしています。これは当時の自分の部屋にあったオーディオを再現した感じと思って頂ければ幸いです。

‘席がえ’の英語の歌詞とここだけの話

謎だった「席がえ」の間奏に出てくる英語。実は以下の通りでした。

Please stay next to me
Please say I love you

Darlin’ stay with me
Please say I love you

See you my first love
So long my first love

終わりの So long は さよなら の意味です。Good-byeですね。相反する2つの文章の意味は、皆さんが解釈して頂ければと思います。

この英語の歌詞、実はVocaloidのクセの影響で、元々のバージョンから少し変えました。曲のエンディング、フェイドアウトする最後のセクションの所。

Thank you my first love
So long my first love

が元々のバージョンでした。ただ、Vocaloidは th の発音が苦手です。どうしても t の発音に近くなる。じゃあ、ということでスムーズな発音の s で始まる表現に変えたんです。

ぶっちゃけ、本来もってきたかった表現ではないものの、少し側面のある表現に変えられたのは作品として良かったかな、とも思っています。


さて、各曲と全体の裏話ともども、お楽しみ頂けたならば幸いです。

先に公開した各記事での説明も、初版時よりも情報を足したものもありますので、よろしければ遡ってまたお読みくださいませ。

“The Album”エピソードトークは、ブログ内タグ Deep-Story でまとめてご覧いただけます。ちょっと遡りたい方や初めてご覧になる方は、太字Deep-Storyをタップ、クリックしてみてくださいませ。

Tetsuya Tanaka と申します。記事を気に入って頂けた方は、上にあるハートボタンを押して頂けると嬉しいです。プロフィール:レコーディングディレクター、作編曲家、トラックメーカーのかたわら、レースシミュレーター・フライトシミュレーターのWeb管理、英語関係のお仕事もやっています。滋賀出身横浜在住。WindowsとStudioOne使い / Spotifyでアルバム配信中です。僕のセレクトしたプレイリストも随時更新中してます。 => Tetsuya Tanaka on Spotify

注釈   [ + ]

1. 参考として、1stアルバム”home”は平均-8LUFSです。