今回のアルバムエピソードトークは’Unfinished Song’。アルバム中唯一のロックな楽曲ということで、使用している楽器が他とがらりと異なっています。

使用機材と背景

ドラムは、このアルバムではおなじみAddictive Drums2のStudio Rockキット。OHマイクとROOMマイクを活かして、特にスネアノートは少し長めに残るように設定しました。1)日本のシーンではスネアノートが残りすぎる楽曲が多いですが、あれは個人的に歌詞の邪魔をしていると感じています。あと、のっぺり伸ばしたスネアは全然踊れないし、ノレない。

プレイイメージは、Vinnie ColaiutaがStingとプレイしているセッションにJ-Rockのテイストをプラスしたら、というイメージです。技巧派イメージが強い彼のプレイですが、あの人もポップスやロックな曲で叩くシンプルな8ビートがとてもカッコいい。強いて言うとこういうプレイをもっとロックよりにしたら、という感じです。

この曲に限らず、僕の打ち込みで大事なのは、ただ8ビート、16ビート、ジャズ等々のパターンをトレースするより、誰が叩いているかというのをトレースすることがほとんどです。2)これ、打ち込みだから大事なことだし、これが出来ていたから海外からオファーがきたのもあります。誰々がこういうことをやっているイメージをトレースすることで、それは自然と自分なりのグルーヴやビートに消化されていくんです。

ベースは1stアルバム”home”でも使用したBOSSA OBJ-5をシングルPU設定でリアPUを鳴らしてます。ジャズベテイストに近い音色をピックで弾いています。アンプシミュレーターはBIAS FX。DIは混ぜておらず、”home”では決してさせていなかったソリッドな音が立つように設定しています。ちなみに、”home”は一部の曲を除き、ほとんどフロントPUを鳴らしています。

あと、アルバム中唯一のエレキベースのこの曲。レコーディング時は、アンプシミュレーターの出音はモニタリングせず、レイテンシーゼロでDI出力のみモニタリングして録音しました。ベースはトーンよりもタイムが命。これは僕のレコーディングでは何十年も変わらないです。録音後に音作りするんですよね。ちなみに、ギターに関しても「席がえ」の一部はそうやって録音しているパートもあります。

この曲のギター録音に関しては、殆どVST経由のモニタリングで録音して、デバイスのレイテンシーぶんをトラックディレイで加算するという方式。ギターはBOSSAのPUセレクター搭載の形式不明機。こちらのPUはバッキング、ソロともHHH設定のリアを鳴らしています。

アンプシミュレーターは、バッキングがBIAS FX。ジャカジャーンと鳴らした時に歪みすぎず、でもアタックと疾走感が出るよう設定しました。

ギターソロはWavesのGTRを使用。中域を重視したROCKMANのアンプのようなトーンを意識して作りました。

ギターソロ一番始めの部分のメインメロディーは、モチーフ曲”Oh!My Angel”のサビなんですが、その後ろで鳴っているバッキングの一部は布袋寅泰さんのとある曲がモデルです。中学当時に四六時中聴いてはコピーした布袋さんの楽曲やBOOWYの楽曲。どうしてもそのエッセンスは盛り込みたかった。

中盤以降に出てくるオルガンはKOMPLETE付属のVintage Organ内のB3。オルガンを入れるというのも、中学時代にモチーフ曲”Oh!My-“でやりたかったことです。

ボーカロイド、歌詞について

Vocaloid5の設定は、男性ボーカルKen。設定としては「かた恋」とそこまで変えていません。

ボーカロイド全般、基本的に高音部はそこまで得意じゃないんです。アップテンポなこの曲は、メロディーのスピードも速いってことで、マウスは100%オープン、サビの高音部ではVocaloid5エディター内蔵のエキサイターで少し前に出るようにしています。

また、この曲はアルバム中最もメロディの上下が激しいので、低音部を持ち上げるためにボカロのWAVにかけているコンプをオートメーションでいじっています。

Unfinished Song 歌詞
Written, Composed, Arranged by Tetsuya Tanaka

未完成のままの テープ
アルバムの隣 置いてきた

最後の年 あふれた思い
ひとつずつ 繋いだ時 ふと気付いたよ

手探りで 紡ぎ出す 初めての メロディーは
君なしじゃ 出来なかった

いつまでも 輝く あの記憶
いつまでも 眩しい この追憶
今日もまた 遠のく 日々だけど
今 君が 幸せならば それでいい

憂鬱な日にも 君がいた
それだけで僕は 嬉しかった

暗く長い トンネルでも
ずっときらめく 光が 君だった

別の道 歩いてく 別の恋 重ねてく
声さえ 思い出せずに

いつの日も あの場所に 眠る記憶
いつの日か 色あせる この追憶
聞けないままの あの日の返事 でも
今 君も 幸せならば それでいい

歌に込めて 思い乗せて
君に届け 託した声
笑われても 茶化されても
君を 好きになって よかった

いつの日か 見れなくなる アルバムも
いつからか 見つからない カセットも
君のこと 思う時 強くなれた あの日々も
あの歌もまだ そのままでいい

©2019 Tetsuya Tanaka, Curry ‘n’ Groove Studio


余談ではありますが、2008年のブログ記事で触れているこの「禁断の音源」というのが、この曲のモチーフにもなった ‘Oh!My Angel’です。

お盆(中編)

封印を解く。


長くブログをやっていると、こうした再会もあるんですよね。さらにこの時点から時が経って ‘Unfinished Song’ という形に消化できた。残しておくもんですね。

More in depth…

歌詞の裏にある物語をもう少し紐解いていきます。

中学2年から好きだった子を変わらず好きだった中学3年の時の話。変わらずというよりも、想いは確実に大きくなっていた。

“Oh!My Angel”が出来た時、恋い焦がれた相手へのラブレターが書き終わったという感覚だった。恋い焦がれた片思いの相手への想いが単に曲という形に変わった、それだけのことだ、と思っていた。

でもそれを言い換えれば、それまで作ったことのないオリジナル曲を作ろうと思わせるくらい大きかった彼女への想いがそこにあった。

ただ、勇気がなく、直接あの子に渡せなかったことで、とてつもない後悔をした。

受け身だった自分。何とも煮え切らない思いで過ごした中学3年の残りの時間。卒業まで伝えられなかった彼女への想い。

正直、”Oh!My Angel”の歴史は30代直前くらいまで葬っていたと言っていい。

でも、20年以上が経ち、過去をテーマにしたこのアルバムを作る時、やはりもう一度振り返っておきたかった当時の景色。眩しい記憶。まっすぐな想い。オリジナルの音源を紛失した今でも心に刻まれている初めてのメロディ。

中学生活全体としてはイマイチだったけど、眩しく残っていたあの片思いだけは作品にしておきたいと思った。

この先、もっと忘れていくかも知れない彼女の面影と彼女への当時の想い。もう思い出せない彼女の声。戻らない時間の無情さ。だから、あの思い出はそのままでいい。

巡り巡って、やっぱり当時あの子を好きになって良かったと思う。この道を歩む大きなきっかけの一歩は、あの片思いがなかったら踏み出せていなかったから。


さて、このエピソードトークもいよいよ折り返し地点。次はアルバムでも異色な”リプライズ”にスポットをあてましょう。

“The Album”エピソードトークは、ブログ内タグ Deep-Story でまとめてご覧いただけます。ちょっと遡りたい方や初めてご覧になる方は、太字Deep-Storyをタップ、クリックしてみてくださいませ。

【2019-04-11 初版】
【2019-08-19 最終修正 – More in depth 追加】

Tetsuya Tanaka と申します。記事を気に入って頂けた方は、上にあるハートボタンを押して頂けると嬉しいです。プロフィール:レコーディングディレクター、作編曲家、トラックメーカーのかたわら、レースシミュレーター・フライトシミュレーターのWeb管理、日英翻訳、ドローン操縦士をやっています。滋賀出身横浜在住。WindowsとStudioOne使い / Spotifyでアルバム配信中です。僕のセレクトしたプレイリストも随時更新中してます。 => Tetsuya Tanaka on Spotify

注釈   [ + ]

1. 日本のシーンではスネアノートが残りすぎる楽曲が多いですが、あれは個人的に歌詞の邪魔をしていると感じています。あと、のっぺり伸ばしたスネアは全然踊れないし、ノレない。
2. これ、打ち込みだから大事なことだし、これが出来ていたから海外からオファーがきたのもあります。誰々がこういうことをやっているイメージをトレースすることで、それは自然と自分なりのグルーヴやビートに消化されていくんです。