アルバムエピソードトークも残りわずかとなりました。今回は’リプライズ’について。

これはもう、言わずもかな’90年代中期から後半にかけての小室哲哉さんや浅倉大介さん制作のポップスでよく聴いた音がたくさん詰まっています。あの時期の一番のお気に入りの楽曲たちをそのままトレースしました。モチーフとして代表格な曲がこちら。

“Unfinished Song”以上に、使っている楽器が普段と違うのが特徴です。

使用楽器など

まずリズム隊。ドラム音源はStylus RMXのTR-909、ベースはTrilianというSpectrasonicsコンビです。Styrus RMXのレイテンシーは、Spectrasonicsの中でも小さめなので、そのままでもそれなりに鳴ってくれる。ただ、やっぱり他の楽曲と同じくパーツごとのタイム調整をするとよりグルーヴする。Styrus RMXの各パーツのタイム調整は、アルバムの他の楽曲で使っているAddictive Drums2と比べるとだいぶ数値が違います。他が20数ミリ秒まで使っているのに対して、こちらは大体10数ミリ秒あたりには収まっています。

そしてピアノは’90年代後半を象徴すると言っていいRolandの JD800 のあの音が欲しかった。色々なディベロッパーがあの音のVSTiをリリースしていますが、今回採用したのはUVI Stationのアドオン Digital Synthesis 2です 。

シンセフレーズが一番どこかしこで鳴っているのもこの曲ですね。この曲ではTone2のIcarusを主に使用している他、LennarDigitalのSylenth1、SpectrasonicsのOmnisphere2を使用しました。

ギターは白玉ディストーションバッキング、ならびにオブリフレーズがHHH配列でリアをセレクト、ブリッジで出てくるクリーントーンがHSH配列のセンターです。

アンプシミュレーターはクリーン、ディストーションともにWavesのGTR。オブリフレーズには、バッキングの設定のものをそのまま音量を大きくしたものを使用。

意識したトーンはROCKMANのアンプですが、あの感じは出にくいので、TM Networkやaccessのレコーディングにも参加されていた葛城哲哉さんのトーンと、accessのツアーギタリストでもある清水武仁さんのトーンの中間あたりを目指して音作りしました。

単体でそれっぽくするよりも、他の楽器と混ぜた時にそれっぽくなるというところを重視して。音量が抑えめなのは、スマホで聴いた時にギターが立ちすぎるからでもあります。今作全般のモニタリング環境として、スマホで聴いた時の音の優先順位というのも意識しました。

ミックスの優先順位として、自分の作品ではリズム隊が一番前に出て欲しいのでそうしてあります。本職の方がやらないようなことも、人によっては未熟だと思われるであろうこともそのままやってます。

この曲は、いわずもかな4つ打ちのTR-909のバスドラがキーになっていますが、そのままミックスすると、いくらタイムをずらしても下敷きを弾いた時の音みたいな感じが出てしまう仕上がりになって、こちらの意図とは離れたものになってしまいます。じゃあ、ということで、中高音部を占めるシンセ群の音量を結構落としました。

ボーカロイド、歌詞について

ボーカロイドは女性ボーカルということで、Vocaloid5内蔵ライブラリのKaori。「席がえ」と比べると少しCool寄りに振っていますが、Cuteパラメーターの方がまだ多めというくらいです。

この曲の歌詞のテーマは、高校時代の毎日ですが、もう一つバックトラックでテーマにしていたこととして、TM Networkの楽曲で使われてそうなメロディや歌詞のフレーズを女性ボーカルで歌うとどうなるかという点です。

’90年代中後半あたりは小室哲哉さん全盛期で、数々の女性ボーカル曲がリリースされましたが、そういう楽曲は女性ボーカル用のテンプレートに則って書かれていたものがほとんどです。

対して、TM Networkの楽曲って、アルバムによっては奇抜なチャレンジをしている楽曲がたくさんある。歌詞にしてもそうで、「これハマる?おーハマってるー」と驚いたものもたくさん。

この曲では、TM Networkの楽曲で使いそうな語尾を特に意識しました。そこに女性ボーカルを合わせるという足し算。

リプライズ 歌詞
Written, Composed, Arranged by Tetsuya Tanaka

玄関を開けて カバンをかごに乗せ
ペダルを踏み込んで 一直線に
教室にはいつも だいたいあの時間
当たり前にそこに ある風景

キミは まだ知らない 未来が何なのか
明日がどうなるか  関係ないよね
大丈夫 今は まっすぐに進もう
まだ見ぬ明日に ほらつながる

浮かんでは 消えてく光
残さず つかんでいく

今年もまた あの景色を 思い出すよ
この坂道 越えた向こう いつもの道
晴れ渡った 空のむこう  届くように
ただ まっすぐに 突き抜けた

向かいの校舎の 特別教室
授業終わりの スタートダッシュ
夏休みは少し ひんやりした階段
駆け上がり 風を 感じる朝

今から待ち受ける たくさんの刺激
多くの試練も 無駄じゃないのさ
大丈夫 今も キミはキミのまま
胸張って 一歩 ほら進もう

出会い 別れ 繰り返して
戻れない 時を刻む

今年もまた あの夏の日 思い出すよ
晴れ渡った いつもの道 キミはいない
僕は僕の 道を進む そう決めたから
眩しい日々に またさよなら

どこかで 待ち続ける 幼い日の自分
見果てぬ 夢を見て 疑わなかった
いつしか 変わらぬ日々 また進み始めよう
終わりなき旅へ

光の向こう 立ち止まった 僕を見てる
キミに向かい あの言葉を 伝え振り向く
もうここには とどまらない そう決めたから
ただ まっすぐに もう一度

今年はもう あの景色は 記憶の中
あの坂道 遥か向こう 見送る影
透き通った 空に向かい 届くように
ただ まっすぐに 突き抜けた

©2019 Tetsuya Tanaka, Curry ‘n’ Groove Studio

More in depth…

歌詞の裏の物語をもう少し紐解いていきます。

夢で昔の風景が出てくることもありますよね。でもどことなく違和感がある、そんな感覚を曲にしました。僕自身、高校時代の夢や高校時代の友人が出てくる夢って結構な頻度で見てまして。やっぱりあの時期って本当に大事な思い出なんだなと思います。

この曲での時系列は2つあって、1つ目は高校1年生の秋くらいから3年生にかけて。2つ目が現在。2つの時系列の自分同士がそれぞれ意識して夢の中で出会うというもの。

また、高校時代の忘れられない出来事の一つに、ある友人が亡くなったことがあります。当時のクラスメイトの全員に刻まれたであろう悲しい出来事だったのですが、ブリッジ直後のサビは、その友人に向けた歌詞になっています。

時間が経つ無常さと、振り返ることの出来るいい思い出になったあの時間を、’90年代後半を象徴するサウンドにのせて。

また、この曲のブリッジは、歌詞を含めて高校時代の別の作品からのマッシュアップになっています。


というわけで、次のエピソードトークはいよいよ最終回。20数年ぶりのリメイク曲でもある”my memory (20 Years After)”を見ていきましょう。

“The Album”エピソードトークは、ブログ内タグ Deep-Story でまとめてご覧いただけます。ちょっと遡りたい方や初めてご覧になる方は、太字Deep-Storyをタップ、クリックしてみてくださいませ。

【2019-04-13 初版】
【2019-08-19 最終修正 – More in depth 追加】

Tetsuya Tanaka と申します。記事を気に入って頂けた方は、上にあるハートボタンを押して頂けると嬉しいです。プロフィール:レコーディングディレクター、作編曲家、トラックメーカーのかたわら、レースシミュレーター・フライトシミュレーターのWeb管理、日英翻訳、ドローン操縦士をやっています。滋賀出身横浜在住。WindowsとStudioOne使い / Spotifyでアルバム配信中です。僕のセレクトしたプレイリストも随時更新中してます。 => Tetsuya Tanaka on Spotify