“The Album”エピソードトーク最後を飾るのは、唯一の’90年代のオリジナル曲のリメイク ‘my memory -20 Years After-‘。

この曲のオリジナルバージョンは、テンポが10から13ほど速いです。現バージョンが出来てから改めて聴くと、まあまあびっくりしたやつ。「こんなん歌えへんやろー」ともなったやつ。

対して、現バージョンはテンポは落としてはいるものの、グルーヴはかなりバシっとタイトにしています。このテンポで引き締めるのは意外と難しいんですが、我ながらうまくいったなーと思っております。

背景、使用機材など

ドラムはXLN AudioのAddictive Drums2。ビートのモチーフはVinnie Colaiutaさん+αといった感じ。セッションミュージシャンが力を抜いてざっとプレイするとこんな感じというニュアンスです。力抜いてるのにタイムはバッキバキっていう。この曲でのドラムイメージとして、ずっと頭の中で鳴っていたのはこの曲。

ベースはSpectrasonicsのTrilian。このアルバムのリズム隊メインでやっている、生のドラムとシンセベースというコンビネーションも、’80年代から’90年代に結構みられました。

リズム隊の各パーツのタイム調整は、この曲が一番スムーズにいきました。普段自分が打ち込んでいる作品に近いからかも知れません。各パーツのトラックディレイは最大16msくらい。

エレピがKOMPLETE付属のVintage Keysのもの。Rhodes特有の「カツン」というリリース音のニュアンスが欲しかったのでこれを選びました。オルガンはKOMPLETE付属のVintage Organ内のB3。

ギターはクリーンパートがHSH配列でセンターPUを使ってます。ソロパートではHSH配列は変わらずですが、PUはリアにしています。

トータルのプレイイメージとして、Steve Lukatherさんと葛城哲哉さん、古川もとあきさんをごった煮にした感じ。TM Networkやaccessなんかのギターを弾いていた葛G先生のプレイも、当時めちゃめちゃコピーしましたよ。

古川さんのプレイは、当時好きだったゲームのアレンジCDでよく弾いてらしたんですね。全く系統の違うフュージョンギターでしたが、これも多くコピーしました。実は、古川さんとは2006年の年末に対バンでご一緒したことがあって。憧れのあの音が目の前で鳴っているのは感動しましたね。

ボーカロイド、歌詞について

VOCALOID5は男性ボーカルKenを少しCoolパラメーター寄りに振っています。この曲に関しては、少し自分っぽい声を出したかったので、’Unfinished Song’とパラメーターをちょこっと変えています。

また、アルバム中唯一、メインの歌詞に英語フレーズが出てくる曲です。サビ頭の‘I’ll be there with you’っとこ。ここは英語ライブラリーのChrisは使わず、Kenのまま「あいるびーでーうぃーじゅー」的な感じで打ち込んでます。また、1番と2番以降でフレーズや打ち込み方を少し変えて変化をつけています。

歌詞は、オリジナルバージョンのフレーズを3割ほど使っていて、7割は書き下ろし。一番に関しては、このアルバムデータ入稿直前まで推敲を重ねていました。アルバム中、一呼吸あたりの文字数が一番多いこの曲。高校生だった自分は伝えたかったことが多かったんでしょうねー。生身の人間が歌うと、これこそしんどい曲です。息継ぎできないやつね。

my memory -20 Years After- 歌詞
Written, Composed, Arranged by Tetsuya Tanaka

駅を出た時から 見果てぬ永遠が続く
旅立ちの時はそう 少し一歩が怖くなる
生きてゆくためだと 言い聞かせても 腑に落ちないけど
進み出すなら今 全てを味方に変えていこう

きっと一人じゃ ここまでは来れなかった

I’ll be there with you 暑い夏の日の
つらくて 切なくて 幸せな 思い出の場所の
記憶のかけら アルバムに綴じて あの棚に戻そう
明日から また一歩踏み出すために

星がまたたくこの街 少しずつ姿を変える
あの夜 みんなで 見た街 今はそれぞれの場所で思う
悔し涙も わがままな恋も あの時あって良かったって
夢を叶えたなら 大切なのは その先の一歩

いつも あの時間に 見かけたあの人はもういない
いつも 見守ってくれた 人に胸張っていられるように

I’ll be there with you ずっと 大事な
あの部屋 あの風景 当たり前の毎日
今はもう 遠い日の景色 涙で重なる
窓の向こう 「またね」 と言った

I’ll be there with you 時が過ぎても
あの日々の あの時の 変わらぬいつもの顔で
やがて 来る日が 訪れる その時までずっと
あの場所で 一緒に笑えるように

©2019 Tetsuya Tanaka, Curry ‘n’ Groove Studio

でも、ボーカロイドが歌うからってことで、譜割りは当時のままにして表現できた。それだけでなく、ボーカロイドでしかなしえない「生っぽさ」がアルバム中一番出ているかな、とも思う作品です。

一見矛盾していると思われることですが、個人的に、ボーカロイド作品の世界観には、ボーカロイドで完結するものと、物語を聞き手が補完するものに分かれると思っています。”The Album”全体として後者に振っているつもりではありますが、この’my memory’は前者に近いかなと。

More in depth…

歌詞の裏の物語をもう少し紐解いていきます。

まず、この曲のテーマにしているのは高校最後の文化祭です。この3年間出演した文化祭というのが、のちに音楽家として生きていく大きなきっかけに繋がっています。そして、高校時代の大きな締めくくりでもありました。

同時に、人生のなかで重要なブレイクスルーを、高校の3年間…1組にいたあの3年間で体験しました。

1年の時。音楽部に入ったこと。そのクラブで全校生徒の前でクラブ発表の機会を与えてもらったこと。翌日、教室に行くと、クラスメイトたちが前日のクラブ発表でのステージを全力でねぎらってくれたこと。クラスの発表の方は殆ど手伝えなかったのに、そうやって理解してくれたこと。それによってこの音楽という特技は誇って良いんだと思えるようになりました。それまでと180度人生観が変わった出来事でした。

2年の時。完全に思い上がっていた自分。そんな時期の文化祭ステージに付き合ってくれたボーカリストと後輩。1年目とは違い、堂々とは出来たが、俺を見ろよすげーだろ的な自己満足度の高かったステージでした。

3年。最後の文化祭。前述しているmy memoryを作り、披露できた文化祭。3年の部員に多くの時間を与えてもらい、僕ともうひとりの同級生はほぼ出突っ張り。3年を共にした同級生とのステージ。そして、当時の男子部員でプレイしたmy memory。2年とは違い、my memoryを通じて感謝を伝えたかった。その感謝が大きすぎて、曲にも言葉にもまとまりませんでした。

20数年の時を経て、あの3年間の体験がどれほど大きなステップになっているかをようやく作品に残すことが出来ました。20年前のあの夏に蒔いた種が花になり、時間が経って、僕も仲間たちも同じように歳をとってそれぞれの環境にいます。あの頃に感じた感覚が、この作品で輝いてくれるといいな。僕が思い出さなくても、この曲自身が覚えていてくれるくらいの位置づけになった曲です。

この曲は、特に高校3年の卒業前の頃から何かと仲良くしてくれている、Iくん、Tくん、Fくん、Tくん、Mくん、Tさん、最近はご無沙汰だけどNくん。そして、当時の担任で今も会ってくださるS先生。改めて彼らに捧げます。


そして、自身のリリース作品では初めて採用したボーカロイドということで、少しディープな話。

まず、エディット全般で気をつけたことは、バックトラックとボーカロイドが分離しないことです。もう少し突っ込むと、ボーカロイドの基本的なタイム調整をかなりシビアにやったということです。

これはボーカロイド以外のトラックもそうなんですが、DAWのシーケンスで各トラックのディレイ0msでの頭合わせだと、音符のアタマ同士がかなりずれています。そうなると、使ってる音がどれだけかっこよくてもカラオケで鳴ってる音みたいに聞こえてしまうんです。1)ちなみに大手チェーンのカラオケの音源データは全て0ms合わせです。

これを解消するのが、トラックディレイ調整です。VOCALOID5をVSTiで鳴らしている時に大体のディレイを調整し、ボカロ部がWAV完パケした後も微調整を繰り返すといった感じ。ボカロの発声の特性上、全部が全部アタマを綺麗に揃えられないので、各波形同志の一番いい場所をかち合わせるキーポイントを決めておきます。そこに合わせてあげることで、ボカロがきっちりバンドで歌ってるように感じるんです。

細かい人は、それぞれのセクションごとに分割して合わせるんでしょうけど、僕は今回「このパートがガチっと合っていれば作品として成立する」と思った地点でWAVを一括で合わせてあります。

今回のアルバムのようにバックトラックがシンプルであればあるほど、アタマのズレは気になりますが、いい感じのところまで修正できたと思います。


さて、2019年3月29日リリースの”The Album”各曲のエピソードトーク、楽しんで頂けたなら幸いです。そして、エピソードトークを織り交ぜながら、また少し聴き方を変えてアルバム自体をお楽しみ頂けたらとても嬉しいです。

次回のエピソードトークは、総合的な振り返りとして、今回使用したマスターエフェクト等の紹介、謎だった「席がえ」コーラス部分の英語を紐解いていきましょう。


“The Album”エピソードトークは、ブログ内タグ Deep-Story でまとめてご覧いただけます。ちょっと遡りたい方や初めてご覧になる方は、太字Deep-Storyをタップ、クリックしてみてくださいませ。

【2019-04-15 初版】
【2019-08-19 最終修正 – More in depth 追加】

Tetsuya Tanaka と申します。記事を気に入って頂けた方は、上にあるハートボタンを押して頂けると嬉しいです。プロフィール:レコーディングディレクター、作編曲家、トラックメーカーのかたわら、レースシミュレーター・フライトシミュレーターのWeb管理、日英翻訳、ドローン操縦士をやっています。滋賀出身横浜在住。WindowsとStudioOne使い / Spotifyでアルバム配信中です。僕のセレクトしたプレイリストも随時更新中してます。 => Tetsuya Tanaka on Spotify

注釈   [ + ]

1. ちなみに大手チェーンのカラオケの音源データは全て0ms合わせです。